February 10, 2009

マクロビと玄米 9)炊くって何ですか?

炊く 



  『ごはんを炊く』




老舗料亭の料理人も、ご家庭の奥様も、毎日当たり前のようにやっていること。
美味しいごはんを炊きあげる技術は、やっぱりすごく大切だと思うんです。

でも、そもそも【炊く】ってなんだろ。

「炊くって何ですか?」

今日は、お米を炊く技術について、科学的な方向から見てみましょう。



 ■炊くって何でしょう?■

end玄米君で説明します。

お米の中心<胚乳 はいにゅうには、
『デンプン』が一杯詰まっています。
胚乳はイネの赤ちゃんである『米』が
芽を出すときの栄養(ミルク)になる部分。
ここが美味しいのね。

デンプンは三大栄養素【炭水化物】のかたまり。
お米のデンプンには、<アミロース>と
<アミロペクチン>の2種類があって、
混ざっています。
お米の種類によってその割合が違うの。


このアミロースとアミロペクチンの割合でお米の味は変わります。

アミロースの割合が多いのは、例えば『タイ米』。
タイ米のアミロース含有率は、30%。
さらさらした食感のごはんが炊けます。
エスニックなカレーには、やっぱりタイ米ですね。

アミロースの割合が少なくなるにつれて、
もっちりした食感のごはんになっていきます。
コシヒカリのアミロース含有率は、17%。
日本人の好きなお米、ナンバーワンですね。

ちなみに「もち米」は、アミロース0%。
だから、超もちもち。


このデンプンを僕たち人間は、<美味しいごはん>として頂くわけですが、
お米を『生なま』では、食べません。
分子と分子がガッチリスクラム組んでる生のデンプンは、消化が悪いです。

この<生のデンプン>を【βベータデンプン】と呼びます。

しかし「水」と「熱」を加えて、<ある一定以上の温度>を越えると、
水を急激に吸い込んで、粘りけのある『糊のりになります。

糊って、昔、図画工作に使っていた、チューブ入りの白いヤツですね。
糊になるのは、デンプンが米粉のように『粉』のとき。
米粒の状態なら『ふっくらごはん』になるワケで。

この<糊になったデンプン>を【αアルファーデンプン】と呼びます。
ベータが、アルファーに進化する。
この糊にデンプンが変化することが、【アルファー化】または【糊化こか

つまり・・
「炊く=デンプンが糊になる(アルファー化する)」ということ。


ちなみに糊に変化し始める<ある一定の温度>が、【糊化開始温度】
お米のデンプンだと60℃前後です。

60℃。
米粉だと、あっという間にアルファー化するけど、
他の成分もいろいろ入ってる『お米』の状態は、時間がとってもかかります。

60℃で、そうですね10時間。

でも炊く温度を上げれば、時間は短縮できます。

70℃で、5〜6時間。
90℃で、2〜3時間。
98℃で、20〜30分。

つまり沸いたお湯の中で、グツグツやる必要がある・・ということ。
この時間(↑)は白米の場合だから、全粒の玄米はもっと長い時間、またはもっと高い温度が必要なんですね。

玄米を炊く場合は、土鍋で長時間炊くか、圧力鍋の高い温度で炊き上げるかの基本どちらかになります。


 ■ミセルと佃煮■

先ほど「炊く=糊になること」と云いましたね。
では、どうして『糊』になるのでしょう。

デンプンの分子と分子がガッチリスクラムを組んだ形を、
【ミセル】と呼びます。

このミセルは、「水」と「熱」が加えられると、
バラバラになって水分を抱き込みます(↓)。

このバラバラが、「水」を抱き込んだ状態が、【糊】。

ミセル














バラバラミセル+水=糊。
これがアルファー化。「炊く」ということ。

でも、バラバラのミセルが、またくっついて
スクラムを組んでしまうことがあります。
この「またくっつくこと」を、【再ベータ化】とか、
【再配列】とか、【老化】とか呼びます。

ミセルがまたくっついて、βデンプンに戻るのですが、
元通りじゃないので、【β’ベータダッシュデンプン】と呼ぶの。
似てるけど違う。「’ダッシュ」がつきます。

固い米を炊いて、ふっくらごはんにする。
でも炊飯ジャーで、ずーっと保温したままにしちゃうと、
ふちの方でカピカピになってる米いるでしょ。アレです。


分かりづらいですか?
この辺が美味しい玄米炊飯法の要なのです。
では・・・

βデンプン







じゃん。板海苔ですね(↑)。
これをβデンプンだと、思って下さい。
水分が少なくて、ミセルがガッチリ結合しています。

αデンプン







続いて「海苔の佃煮」

「水」と「熱」を加えると、
水を吸い込んで、ミセルが崩れます。
この<佃煮>がαデンプン。

海苔は完全に溶けて、美味しい佃煮に炊きあがっています。
美味しく炊く = 完全にアルファー化 = 美味しい<佃煮>。

β’デンプン







そんな佃煮も、皿にのっけて一晩おいておくとカピカピになります。
これが「老化(再ベータ化)」するっていうこと。
ミセルはまたガッチリ結合しているけど、もう板海苔じゃない。
だから『’ダッシュ』が付く。

まとめです(↓)。

美味しい玄米を炊くには、米粒中すべてのデンプンをきれいな『アルファー』に
してあげる必要があります。

水分が行き届かないと、アルファー化できません。
温度が低すぎてもダメです。
低い温度で長く加熱していると
アルファー化しながらも、同時に「再ベータ化」が起こります。
おいしいごはんになりません。

つまり、「美味しく炊く」って
「水」と「熱」を上手にコントロールすること。
適度な「水」をデンプンに抱き込ませながら、「熱」を加えてよりたくさんのアルファーを作っていく。

アルファー化理論は、もうバッチリですね。
あとは実技編に入りましょう。

海苔喰う








あ、海苔食べられた。



vegetus at 09:46│Comments(22)TrackBack(0)clip!マクロ本 

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この記事へのコメント

1. Posted by    December 27, 2006 06:29
おはようございます。
そうそう、学校の家庭科でこのアルファー化や再ベータ化などを習いました。
ここまで科学的じゃなかったですけどね。

前日に炊いた玄米でおにぎりを作り、次の日のお弁当にしています。
再ベータ化してるから消化悪いかなぁなんて、ちょっと思ってました。
次の日に美味しい玄米のおにぎりが食べれたらいいなぁなんて思います。温かいやつ。

今のところ、よーく噛んで食べるくらいしか思いつきません。
次の記事も楽しみにしてますね。
2. Posted by わた   December 27, 2006 09:28
papaさんの説明は、文章も絵も見やすくて面白いので、
いつもよく理解できます。
なるほどねぇ(^ー^ ちなみに、
「β’」を「α」に還元するイイ方法ってありますか(@.@?
3. Posted by macrobi papa   December 27, 2006 16:07
こんにちは、舞さん。
こんにちは、わたさん。
いつもありがとうございます。

玄米のおにぎりは、白米のそれに比べ「日持ち」が悪いです。前日に握っても、常温に置いておけないし、冷蔵すれば
食味が落ちます。
一度冷まして、次の日にもう一度温め直したものを、おにぎりにするのが良いでしょう。
竹から抽出する天然エキスで、玄米の日持ちを格段に良くするものもあるのですが、あまり一般的ではありません。

握るときに塩や梅酢を使うのがオススメです。
4. Posted by macrobi papa   December 27, 2006 16:14
さて、玄米の再ベータ化を防ぐ方法ですが、4つあります。

再ベータ化は、冷めるときに玄米ごはんの水分が失われることと関係します。それを防ぐには、

1)糖分を加える。
玄米中の水分と砂糖を結合させて、失われないようにします。甘くて食べれないので、×。

2)急速冷却する。
急速に冷やして、再ベータ化が始まる前に冷凍します。
ご家庭の冷蔵庫じゃ、×。

3)急速乾燥する。
α化した状態のまま、水分38%まで急速乾燥させます。
アルファー米という製品がコレ。
急速乾燥は、やっぱりご家庭じゃ、×。
5. Posted by macrobi papa   December 27, 2006 16:19
続きです。

4)再アルファー化する。
わざと再ベータ化させて、高温で加熱するともう一度「再アルファー化」するんですね。
どういう事かというと、中華おこげとか、せんべいとか。
乾燥させて、油で揚げる。もしくは焼く。
そうするともう一度、アルファー化して、もうベータ化はしなくなるんです。

でも、これじゃご飯じゃない。×。

ははは、全部×です。
6. Posted by macrobi papa   December 27, 2006 16:29
話が長くなりました。
(記事にすれば良かったかナ)

結局どうするかと云えば、まず炊飯時に、完全にアルファー化させること。それをおひつや飯台など、木製の容器で保存し冷ますことの2つが大きなポイントです。
水分が失われないように、冷ます。
ステンレスのバットに広げて冷ましても良いのですが、飯台のほうが美味しいです。

それをもう一度「水」と「熱」を加えて、再アルファー化すること。蒸すか、煮るのが良いでしょう。
状態によっては炒めるのもアリです。

ちなみに酵素玄米のように特殊な保存方法もあります。
細かい話は、やっぱり別の記事で。
7. Posted by きみ   December 27, 2006 20:47
はじめまして。1ヶ月前にマクロビを知りまして、マクロビ系のレシピ本を買いあさりすこしずつ実行しておりますきみと申します。田舎に住んでおりますのでなかなか実際のお料理をいただくことができないので、どうせだったら本格的に勉強したいと思いネットで検索中です。

マクロビパパさんのHPにもためになることがたくさん載っているのですが、なにしろパソコン上でしか読むことができないので、本にでもなっていたら便利なのになあ・・・って思いました。・・・で、もしかして、本など出版されていたりしませんか?ぜひ購入して勉強したいと思います。
つづく・・・
8. Posted by きみ   December 27, 2006 20:53
つづきです。

マクロビもクシ・桜沢・大森さんなどいろいろな流派??がありどこで勉強すればいいのか迷ってしまいました。

私は糖尿病ではないものの、少々血糖値が高いことがわかりそれを機会にマクロビにはまりました。体調をよくする、ということを第一の目的として勉強したいと思っております。

どのように流派??を選んでいいのか、よろしかったら知恵を貸していただけませんでしょうか?(このコメントが適切でなければ消去してください。いろんな方がブログを拝見していますものね。。。)

差し支えなければお返事をいただけるととてもうれしいです。お忙しいとは思いますが、よろしくお願いいたします。
9. Posted by mike   December 27, 2006 23:16
こういうお話を待っていました。
いつも圧力鍋でご飯を炊く時、「おいしく炊くには」と考えていて、最初おもりをつけないで途中からおもりをつけて炊く方法とか、中火にしたり強火にしたり、弱火に変えたりという過程において、鍋の中で米にどういうことが起こっているのが知りたいとずっと思っていました。
火の調節などにちゃんと何か意味があるのだと思うのですが、
それを説明してくれる資料が見つからないので、
papaさんの記事に期待しています。
お忙しいとは思いますが、ぜひ、こういうこともお分かりの範囲で書いて頂けたら大変嬉しいです。

10. Posted by macrobi papa   December 28, 2006 21:03
わたさんへ。

上記(↑)の玄米の冷やし方ですが、飯台で冷やすより熱々をラップで包んだ方が美味しいと書いている方もいました。

とりあえずこれから実験しますので、答えは保留で。
11. Posted by macrobi papa   December 28, 2006 21:09
はじめまして、きみさん。

僕はマクロビに関しては独学です。
一日料理教室には何回か行きましたが、スクールに通った事はありません。
しかし基礎をキチンと確認したいと思うので、スクールには通ってみたいです。

流派という考え方を、僕は認めたくないのですが、ほんの一部の間では、いろいろ確執のようなものがあるようですね。
しかし、若い人の間では、どちらでも勉強されて知識を深めようとされる方が増えてきています。
12. Posted by macrobi papa   December 28, 2006 21:20
きみさん、続きです。

桜沢先生が提唱した<マクロビオティック>は、もともとひとつのものでした。

世界に広まっていったもの、病気治しを極めていったもの、マクロビオテイックは、いくつかの流れに分かれて行きましたが、陰陽から見て、それはいずれ太極に還るもの。
またひとつになる日が来ると思うのです。

いろいろな考え方を覗いてみて、その中から自分らしいマクロビオティックの答えを探してみてはいかがでしょうか?



13. Posted by macrobi papa   December 28, 2006 21:23
こんばんは、mikeさん。

期待されると、通常100倍力が沸いてきます。
あ、でもボチボチ執筆ペースなんで。
14. Posted by マクロ美風   December 29, 2006 08:45
◆玄米の冷まし方

最初から後で加熱することを目的に玄米を冷ます場合は、炊き立てをラップにくるんでしまうことをオススメします。

理由は、おひつや飯台で冷ますと、ご飯の水分が失われるからです。
ご飯の美味しさは、「水分」が大きな要素なので、出来るだけ水分の蒸発を防ぐためです。

温め方も水分のことを考えて温め、最後は「余分な水分を飛ばす」ことをお忘れなく。
15. Posted by マクロ美風   December 29, 2006 08:48
「炊き立て」 →「 炊きたて」でした。
すみません。
16. Posted by macrobi papa   December 29, 2006 20:21
やっぱりそうですか。
今日実験しますね。
17. Posted by piyo   December 30, 2006 22:06
papaさんこんばんは。
マクロ美風さんのコメントに共感して思わずキーをたたいてしまいました。

(実験したわけではないですが)学校があるときはたいていまとめて炊いた玄米をラップに包んでそのまま冷凍庫にGOでしたが、後で解凍したときに、お櫃に入れて置いて温め直したものよりも美味しく感じます。水分ごと凍らせてしまうのでラップを開けたときは少しベちょっとした感じですが、そのまま食べたり詰めたりする前に一混ぜすると、ポロポロにはならずに炊きたてのようなふわっとしたご飯が食べられます。一人分を炊くのって難しい上、お米は一度にたくさん炊いた方がおいしいので一人暮らしの人とか自分しか玄米を食べない人にはお勧めだと思います。
18. Posted by piyo   December 30, 2006 22:06
あと、最近お櫃を手に入れたので、いったんお櫃に移してから余分すぎる水分をとばしてラップに包む形を取っていますが、ずっと入れておくと次の日にはやっぱりポロポロの冷やごはん状態になって炒めたりしないと美味しくない気がします…

でもお櫃に入れたご飯には特有のおいしさがあるので、やっぱり炊きたてのご飯に勝るものはないですね☆
19. Posted by macrobi papa   January 01, 2007 12:53
あけましておめでとうございます、piyoさん。

冷やご飯になったときの状態は、アルファー化の状態でも変化するようです。
ここで説明するのも、立ち話しているようで何なので、また次回。

今年もよろしくお願いいたします♪
20. Posted by ひろ   January 08, 2007 21:12
papaさん、今晩は。アルファー化とベーター化、すごく勉強になります!美味しくご飯を炊く事ってマクロを始めて最初につまった難題でしたが、これは、長い時間かけて解決するものだな〜っと
思っていました。ここで、皆さんの書かれたご意見もとても参考になります。これからが楽しみです。
21. Posted by みき   February 10, 2009 10:51
>つまり、「美味しく炊く」って
>水」と「熱」を上手にコントロールすること。

すご〜い!!
なるほど☆
ここを説明するために、力説だったのですね└( ̄∇ ̄)┘

とってもタメになりました。
これからも、楽しみにしています♪
ありがとうございます(*^^)v

超久々の、コメントでした〜
22. Posted by macrobi papa   February 10, 2009 11:08
ありがとうございます、みきさん。
玄米の記事、もうこれ3年くらい書いているのですが、
そろそろ書き上げようと準備していました。

>ここを説明するために、力説だったのですね

今、本丸を作成中です。
そのためのお堀とか、石垣みたいな感じ。

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